労働判例コラム⑨(北九州市営バス事件、すみれ交通事件、学校法人C事件)

労働判例速報2020.1.10

【バス運転手の待機時間がおおむね労働時間にあたらないとされた例】⇒福岡地裁令和元年9月20日判決〈北九州市営バス事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 被告(以下「Y」という)が運営する市営バスの運転手として勤務する原告(以下「X」という)が、未払時間外割増賃金や付加金等の支払いを求めた事案。主な争点は、終点到着から次の出発までの待機時間が労働基準法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という)に該当するかである。

第2 裁判所の判断

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を言い、実作業に従事していない時間がこれに該当するかは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる(参考判例①)。

 そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保証されて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価できる。したがって、不活動時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価できる場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(参考判例②③)。

2 これを本件についてみると、待機時間に関するYと労働組合の協議の経緯、待機時間に関してYによりなされた通知等からすると、乗務員は、Yが待機時間を労基法上の労働時時間ではなく、休憩時間であると取り扱っていたことを認識していたと認められる。また、待機時間一般における乗務員の行動の自由度からすると、待機時間において乗客や車内の温度調節や、次の業務へ向けた早めの移動、突発的なバスの移動に臨機応変に対応することが労働契約上義務付けられていたとは認められない。さらに、Xが主張するような待機時間中に生じうる業務も待機時間中常に備えておかなければならないようなものでもない。

 したがって、待機時間一般について、その間乗務員が労働契約上の役務の提供を義務付けられておりYの指揮命令下に置かれていたものと評価することはできないため、待機時間は概ね休憩時間と認めるべきである。最も、待機時間において労働時間と考えられる時間が全く存在しないとまでは言えず、待機時間の1割程度は労基法上の労働時間に該当すると認めるのが相当である。

第3 結語

 以上より、Xの請求について、待機時間の1割に相当する時間については、理由がある。なお、法定時間外労働時間に当たる部分の少なさ、及び待機時間についての労使間の協議がなされた経緯等の諸般の事情を考慮すると、労基法違反の程度は大きいものとは言えず、付加金の支払いを命じることは相当でないというべきであり、この点についてのXの請求は理由がない。

〈参考判例〉

①最高裁平成12年3月9日判決(民集54巻3号801頁「三菱重工業長崎造船所事件」)

②最高裁平成14年2月28日判決(民集56巻2号361頁「大星ビル事件」)

③最高裁平成19年10月19日判決(民集61巻7号2555頁「大林ファシリティーズ事件」)

【定年後再雇用のタクシー運転手の雇止めが有効とされた例】⇒横浜地裁令和元年9月26日判決〈すみれ交通事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 タクシー事業を営む被告(以下「Y」という)において、勤務していた原告(以下「X」という)が、Yによる雇止めは労働契約法19条に違反し違法無効であると主張して、不法行為に基づき300万円の慰謝料等の支払いを求めた事案。

 上記雇止めの有効性が主な争点となった。

第2 裁判所の判断

1 Xの再雇用に対する期待

 XはYにおいて、定年を迎えた後、3回にわたって契約更新を受けており、Yにおいて健康かつ接客態度及び業務態度が良好な者であれば、65歳以上であっても、再雇用する旨述べていることからすると、Xの再雇用に対する期待はX自身及び他の従業員に対する契約更新状況に基づいたものとして一応合理的なものと評価できる。

 もっとも、Xは本件雇止め時点において69歳と高齢であり、年々身体能力が低下していくこと自体は否めず、その程度いかんによっては、雇用契約が更新されなくなる可能性も否定できないのであるから、その意味でXの雇用契約更新への期待の程度は限定的である。

2 本件雇止めが客観的に合理的な理由に基づくか

 Xは、平成27年5月30日付で雇止めとされているが、その主な理由は、平成27年5月16日に行われた危険運転と評価されてもやむを得ない運転行為に及んだことであり、これについて、警察から注意を受けた際も、Xは自らの非を認めず謝罪や反省をしていない。また、Xは定年後契約を更新してからの交通事故発生率が比較的高いといえ、本件雇止め直前の雇用期間中にも立て続けに事故を惹起している。それにも関わらず、上記危険運転行為に及び、これについて反省や今後事故を回避するための方策を真摯に検討する様子がうかがえないことを踏まえると、Yにおいて今後のXの運転により生じうる重大事故等の発生を危惧し、上記危険運転について真摯な反省及び謝罪がなければ雇止めにするとの判断に至ったとしてもやむを得ない。さらに、Yが労働組合を通してXに謝罪を求めた際も、Xはこれを拒絶しており、Xは自ら本件雇止めを回避する唯一の機会を逃したものといえる。

 このような事情と、上記のようにXの雇用契約更新への期待が限定的であることからすると、本件雇止めには客観的に合理的な理由が認められる。

第3 結語

 以上より、本件雇止めは違法無効なものではなく不法行為に該当する余地はないため、Xの主張は理由がない。

 なお、本件は、他の従業員についてYによる有給休暇取得妨害及び就労拒否の不法行為該当性も争点となっていたが、本件事案の事情に照らし、いずれも認められないと判断されている。

労働判例速報2020.1.20

【大学非常勤講師への賞与、家族手当、住宅手当等の不支給が労働契約法20条に違反しないとされた例】⇒東京地裁令和元年5月30日判決〈学校法人C事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 C大学等を設置し、運営する学校法人である被告(以下「Y」という)と有期労働契約を締結し、C大学において非常勤講師として就労している原告(以下「X」という)が、Yとの間で無期労働契約を締結しているC大学の専任教員との間に賃金等について労働契約法20条(※)に違反する労働条件の相違がある旨を主張して、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、その差額分(合計2308万8614円)及び遅延損害金並びに弁護士費用(230万8861円)の支払い等を求めた事案。主な争点は、Xと専任教員との間に労働契約法20条の規定に違反する労働条件の相違があるか否かである。

第2 裁判所の判断

1 まず、労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」とは、有期労働契約者と無期労働契約者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解される(参考判例①)。

 本件において、Xと専任教員の賃金に関する労働条件の差は、Xに非常勤講師給与規則が適用されることにより生じているから期間の定めがあることにより労働条件が相違しているといえる。

 

2 次に、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」とは、有期労働契約者と無期労働契約者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうものと解される(参考判例①参照)。C大学におけるXと専任教員では、扱う業務においてその内容が大きく異なり、Xは定められた授業を行うだけである一方で専任教員は授業のみならず、大学運営に関する幅広い業務を行い、これらに伴う責任も負う立場にある。

 また、労働契約法20条の「その他の事情」は、職務の内容及び変更の範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないと解される(参考判例①参照)。この点について、本件では、専任教員と非常勤教員とでは国からの補助金の額に大きな開きがあること、C大学における非常勤教員の待遇は周囲の大学と同水準であったうえさらに高水準となるような方向での見直しも行われていたこと、専任教員には原則として兼業が認められていないこと等の事情がある。

 これらの事情からすると、Xと専任教員との賃金に関する労働条件の相違が不合理と認めることはできない。

第3 結語

 以上より、Xの上記請求には理由がないため損害額について検討するまでもなく認められない。なお、Xは、上記主張に加えて、専任教員として雇用されることについて契約締結段階にあったにもかかわらず不当に破棄された旨主張し、不法行為に基づく損害賠償も求めているが、当該不法行為に基づく損害賠償請求権については消滅時効が完成しているため、この主張についても理由はない。

〈参考判例〉

 最高裁平成30年6月1日判決(民集72巻2号88頁「ハマキョウレックス事件」)

〈参考法令〉

・労働契約法20条

   以下の規定に集約。

・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条

 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない