労働判例⑯(マルハン事件、学校法人A学園(試用期間満了)事件、学校法人A学園(雇止め)事件)

労働経済判例速報2020年4月20日

【セクハラ、パワハラ、不倫等を理由とする懲戒解雇が無効とされた例】⇒東京地裁令和元年6月26日判決〈マルハン事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 原告(以下「X」という)は、平成12年3月27日、パチンコ店を経営する被告(以下「Y」という)との間で期間の定めのない労働契約を締結した。Yは、平成29年10月16日、Xに対し、複数の部下や店舗スタッフに対するセクハラやパワハラ等を理由として懲戒解雇することを伝え、同年11月4日付で懲戒解雇した。これに対し、Xは、Yに対し、本件労働契約に基づいて、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、不法行為に基づく損害賠償の支払い等を求めて訴えを提起した。主な争点は、本件懲戒解雇の有効性及び不法行為該当性、未払賃金の有無である。

第2 裁判所の判断

1⑴ Yが、本件懲戒解雇事由として主張する事由は、証拠上、そもそもそのような事実が認められないか、一定の事実が認められるとしても懲戒解雇事由にあたるとまでは言えない。また、本件懲戒解雇に至る手続きをみても、Xによる反論の機会が実質的に保障されていたのか、Yにおいて、Xによる反論等を踏まえて慎重な検討・判断を経て懲戒解雇処分を行うに至ったのかについて疑問がある。

 そうすると、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にあたるというべきであり、労契法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして無効である。なお、Yは、懲戒解雇が無効な場合、普通解雇すると主張するが、Yの就業規則にある解雇事由に該当する事情はなく、Xの能力にも問題はない本件においては、普通解雇も労契法16条により、解雇権の濫用として無効となる。

⑵ 上記のような態様での懲戒解雇であることからすると、本件懲戒解雇は、違法であり、不法行為に該当する。

2 また、Xは、本件懲戒解雇後、自身及び家族の生計維持のために同業他企業Aに再就職しているが、遠方の店舗の店長としての就労であること等のAでの待遇等を踏まえると、Aから相当の賃金を得ていたとしても直ちにYでの就労意思を喪失したとはいえないため、Yに対して本件懲戒解雇後の中間収入(参考判例①)を控除した上で、未払賃金の支払いを求めることができる。

第3 結語

 以上より、Xの請求のうち、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する部分と、未払賃金及び不法行為に基づく損害賠償の支払いを求める部分については理由がある。

〈参考判例〉

①最高裁昭和37年7月20日判決(民集16巻8号1656頁『米軍山田部隊事件』)、最高裁昭和62年4月2日判決(集民150号527頁『あけぼのタクシー事件』)

 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中にほかの職に就いて収入等の中間利益を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うにあたり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益の控除の対象とすることが禁止されているものと解すべきであるから、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解するのが相当である。

【一言コメント】

本件はセクハラ、パワハラの認定について極めて高度の証明を求めており、一般的な裁判例と一線を画していると感じる。判決理由の中で、内部の派閥争いを匂わせる認定をかっこ書で行っていること(別の営業部長の申告があるまでは、特に問題としなかったという評価など)、懲戒手続において異議申し立ての機会を十分与えていなかったことから、価値判断としてかなり懲戒解雇に厳しい姿勢で臨むという考えが裁判官にあったと思われる。したがって、控訴審では証拠に基づく認定により判断が覆る可能性もあり、セクハラ、パワハラによる懲戒処分事例として一般化することは難しい事例と思われる。

労働経済判例速報2020.4.30

【コミュニケーション能力不足等を理由とした試用期間満了時の解雇が有効とされた例】⇒那覇地裁令和元年11月18日決定〈学校法人A学園(試用期間満了)事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 債権者(以下「X」という)は、学校法人である債務者(以下「Y」という)と日本語講師として、2年間の有期雇用契約を締結した。なお、その最初の3か月間は試用期間とされていた。Yは、試用期間満了時にXのコミュニケーション能力及び協調性への不安を理由に試用期間を3か月延長し、それらについて改善を求めた。そしてYは、延長後の試用期間満了時に、上記問題点が改善されなかったことを理由として、試用期間満了による解雇を通告した。これに対して、Xは、そのような解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認及び賃金の仮払いを求めて仮処分を申し立てた。主な争点は、試用期間満了による解雇の有効性である。

第2 裁判所の判断

 Xの言動からは、Aの副学長等がXのコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにも関わらず、自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、話し手の意図を正しく受け止められなかったり、自身の意見に固執する姿勢が看て取れる。またXが、ミーティングにおいて最低限の発言すらしようとせず、終始素っ気ない態度をとっていたことからすると、Xは、ミーティング以外でも非友好的な同僚とは積極的な交流はせず、最低限のものにとどめていたことが推認できる。さらに、Xは無断で試験時期をずらしたり、勤務時間内にボランティアに参加したり、退勤時間を他の同僚とずらしたりしているところ、仮にこれらの行為に正当性が認められるとしても、少なくとも事前に上司や関係職員に相談しなければ無用な軋轢を生む可能性をはらむことは明らかな行動ばかりであることからすると、Xの方から相談・報告をしておくべきであった。

 以上のような問題点とあくまで自身の判断の正当性の主張に力点を置く態度を見ると、Xは、Yの職場で求められる最低限のコミュニケーション能力の域に達していなかったことが容易に想像できる。

 これらの問題点は、いずれも試用期間を経て初めて発覚しうるものであるといえ、Xが上司からの指導等によって改善できる見込みは薄い。また、YがXの雇用を継続することにより、Xのコミュニケーション上の問題により、職場環境が悪化することが容易に想像できる。

第3 結語

 以上からすると、本件の雇用が2年の有期雇用契約であることを考慮しても、Yが試用期間終了をもって解雇を選択したことはやむを得ないといえる。よって、本件申立には理由がない。

【雇用継続の合理的期待がないとして有期労働契約の期間満了時の雇止めが有効とされた例】⇒那覇地裁令和元年11月27日決定〈学校法人A学園(雇止め)事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 債権者(以下「X」という)は、学校法人である債務者(以下「Y」という)との間で、平成28年11月1日から平成30年10月31日までの2年間の有期雇用契約を締結し、本件雇用契約の期間満了時に、平成31年3月31日までの5か月間の有期雇用契約を再度締結した。その後、YはXに対して、平成31年1月29日、クリニックの業務縮小を理由として、書面により雇止めとする旨通知した。これに対して、Xは、本件雇止めは無効であり、XY間の労働契約は、労働契約法19条により従前と同一の内容で更新されたと主張し、Yに対して地位の保全及び賃金の仮払いを求めて仮処分の申し立てを行った。主な争点は、本件雇止めの有効性である。

第2 裁判所の判断

 Yが採用している職員はすべて任期制雇用であり、契約書上も就業規則上も明確に有期雇用契約であるとされ、継続的に更新されるとまではされていない。Xは、1回の更新を経て、通算2年5か月の勤務をしてきたものであり、多数回で長期間の契約期間があったものではない。また、本件更新が5か月の更新であり、5か月満了時に必ず更新するというのであれば、そもそも2年更新すればよかったはずである。それにもかかわらず5か月の更新だったことからすると、とりあえず年度末まで更新して、それまでの間に今後の更新について検討するという前提での更新であったと認められる。また、Yにおける契約の更新の手続きは、Yから契約更新の条件が提示され、かつそれにXが同意すれば更新されるというものであり、厳格なものであった。

 以上からすると、X自身としては、Yにおいて勤務するにあたり、長期にわたり働くつもりであったことはうかがわれるものの、それはあくまでも主観的なものといえ、Xに雇用継続の合理的期待があるとはいえず、本件労働契約は労働契約法19条2号に該当しない。

第3 結語

 以上より、本件雇止めは、適法になされたものであり、有効である。よって、本件申立は理由がない。