2023年度広島県経営者協会・第3回経営労働法研究会

2023年度広島県経営者協会・第3回経営労働法研究会

2024/03/15 報告会研修講演

2023年12月6日、代表弁護士・下西祥平が広島県経営者協会様主催第3回経営労働法研究会において判例報告をしました。同研究会は、経営法曹会議所属の弁護士が、年に4回、経営者協会所属会員向けに、労働経済判例速報掲載の最新判例をご紹介し、実務の参考にして頂くための勉強会です。


今回、取り上げたのは、
1 長門市事件(最高裁(令和4年9月30日)判決、労経速2507号1頁)
2 熊本総合運輸事件(最高裁(令和5年3月10日)判決・労経速2516号1頁)
3 セントラルインターナショナル事件(東京高裁(令和4年9月22日)判決・労経速2520号1頁)

です。


テーマの選定理由としては以下の通りです。


1 長門市事件


公務員(消防職員)のパワハラに関する裁判例ですが、高等裁判所が分限免職処分を無効(処分が重すぎる)としたのに対し、最高裁が破棄自判し、処分が妥当であると認めた事件です。パワハラ自体の内容もひどいものでしたが、高裁よりも最高裁の方が労働者に厳しい姿勢を見せる点が、近時の自衛官のハラスメント問題等を見ても、社会背景を反映しているのではないかと考えさせられる事案でした。


2 熊本総合運輸事件


運送会社において残業代を固定額で支払う仕組みをとっていましたが、この会社では、賃金の総支払額が変わらずに、歩合給と調整給で残業代部分を組み込んでいたという賃金制度をとっていました。最高裁は、残業代に応じて歩合給や調整手当を操作する賃金制度は、実質的には通常の賃金部分と残業代部分の判別が出来ておらず、残業の対価性も認めませんでした。関連裁判例として、歩合給の計算の中で残業代を控除する賃金制度を有効と認めた、トールエクスプレスジャパン事件(大阪高裁令和3年2月25日判決)と比較して、適法と認められる賃金制度の作り方を検討する題材になる判例であると考えます。


3 セントラルインターナショナル事件


上司との人間関係がうまくいかず、精神疾患を患い休業した従業員に対する降格処分の有効性が争われた事案ですが、1審と2審で判断が分かれました。1審は降格処分を有効とし、2審は降格処分を無効としました。2審は、従業員が起こした問題行動の原因は精神疾患であり、その精神疾患は会社の落ち度で発症したものであるから、その責任を従業員に全て転嫁するような懲戒処分は懲戒権の濫用と判断しました。メンタルヘルスに不調を発生させるに至る経緯を踏まえた懲戒判断が求められることの参考になる事案としてご紹介しました。

主催:広島県経営者協会

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