【はじめに】
今後随時想定される問題をQ&Aでアップしていきますが、取り急ぎ参考となる省庁や弁護士会の情報を掲載します。なお、本整理は、経済産業省のホームページに掲載されている情報、東日本大震災等復興支援委員会によるQ&A、「中野明安弁護士がNBLに寄稿された「新型インフルエンザと法的リスクマネジメント-企業における対策のポイントと法律実務家の役割」(NBL No.899-10頁以下)、日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事業再生PT座長宮原一東弁護士作成の 「新型コロナウイルスによる売上減少、資金繰りに不安を感じている事業者様へ」 と題するご案内、三苫裕弁護士・黒田裕弁護士におる「新型コロナウイルス感染症への法務対応(1)「想定し得る諸問題の概観」(商事法務No.2224、24頁~)、に依拠する部分が大きい。
【経済産業省】
新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ(パンフレット)
コロナ緊急対策関連情報 (下請取引)
中小企業庁は、各府省等、都道府県知事、人口10万人以上の市及び特別区の長に対して、官公需の発注に当たり、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている中小企業・小規模事業者に対して、柔軟な納期・工期の設定・変更・迅速な支払や適切な予定価格の見直し、官公需相談窓口における相談対応について要請しました。
※各府省等とは、各府省及び各府省の所管する独立行政法人・国立大学法人等を指します。https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200303009/20200303009.html
【金融庁】新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html
金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書)について、今般の新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていますので、ご遠慮なく所管の財務(支)局にご相談ください。
(注)有価証券報告書及び
内部統制報告書の提出期限 : 事業年度経過後3ヶ月以内
四半期報告書の提出期限 : 四半期会計期間経過後45日以内
半期報告書の提出期限 : 中間会計期間経過後3ヶ月以内
【法務省】定時株主総会の開催について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
【弁護士会】
新型コロナウィルス生活トラブルQ&A
【広島県】
新型コロナウイルス感染症の影響を受ける中小企業者等のみなさまへ
広島県県費預託融資制度
【広島市】
新型コロナウイルスによる影響を受けられた事業者に対する支援について
商工・雇用関係一覧表 [PDFファイル/193KB]
【取引編Q&A】
〈新型コロナの感染拡大を原因として取引先に損害を生じさせた場合〉
Q 運送事業において、今後新型コロナの感染が拡大したことを原因として、配送が遅れてしまい取引先に損害を与えてしまった場合に、その賠償をする義務を負うのでしょうか。
A まず、契約上の債務を履行できないことにより取引相手が損害を被った場合に、その賠償義務を負うかについては、民法415条の問題になります。すなわち、当事者の責めに帰すべき事由(帰責事由)により、当該債務不履行が生じた場合には、当該帰責事由がある当事者が損害賠償義務等を負います。一方、帰責事由がない程度に対策を講じていたにも関わらず債務の履行ができなくなった場合、つまり債務不履行の原因が、不可抗力による場合には、損害賠償等の義務は負いません。
荷物の延着により取引先に損害を与えてしまった場合も、その原因が不可抗力といえるか、すなわち当事者に過失がないかどうかが問題になります。この点について、裁判例(※1)は、不可抗力といえるか否かについて、その債務の履行ができなくなった直接の原因について予見可能性があったかどうかを問題とし、その予見可能性の程度としては、抽象的な危険についての予見可能性では足りず、具体的な予見可能性を要するとしています。
もっとも、新型コロナが大流行することを具体的に予見することは困難ですが、過去に新型インフルエンザが大流行した年もあることからすると、同様の感染症が大流行する場合を想定することは可能といえます。そうすると、労働者が大流行した感染症に罹患し、人員確保が困難になり配送稼働力が低下しうることは予見可能ですし、公共交通機関の間引き運転等により、自家用車で出勤するビジネスマンの増加することで道路の渋滞が生じることも予見可能といえる余地もあります。以上からすると、債務の不履行が不可抗力によるものであるとするためには、普段から、そういった感染症が大流行した場合を想定して対策(BCP)を講じておくことが重要といえます。
【参考裁判例】
東京地判平成11.6.22判タ1008号288頁
阪神淡路大震災の際に、倉庫内の化学薬品が荷崩れにより漏出し、ほかの貨物から流出した水分と化合して発火した火災により貨物が消失した事故について、倉庫会社に過失があったかが争われた裁判例で、阪神淡路大震災を震度7の未曽有の大地震であると認定し、このような規模の大地震が発生することを具体的に予見することは不可能であったと判断し、倉庫会社に過失は認められないと判断。
【参考法令】
民法415条(債務不履行による損害賠償)*改正前
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
Q 機械の部品のメーカーが新型コロナを原因として事業休止となり、サプライチェーンが深刻な打撃を受けています。メーカーが最終製品を完成させることができず、納品ができないという事態が考えられますが、この場合に生じた損害の責任はだれがどのように負うのでしょうか。
A この点についても、部品メーカー、医療器具メーカーに帰責事由があるかどうか(不可抗力免責を主張できるか)が問題となります。すなわち、過去に地震等の災害を原因として部品の供給停止という事態が発生していますので、このことを念頭に置き、サプライチェーンにおける具体的なリスクを認識・理解し、普段から他企業に対する受注の方途を講じるなど、ボトルネックの対策(BCP)を講じておくことが重要です。
以上のような対策を講じていなかった場合、不可抗力による債務の不履行と認められない余地があるので、メーカーとしては最終製品の納入ができなかったことによる責任を負うことになりますし、部品メーカーもメーカーに対して一定の責任を負う可能性があります。
【参考裁判例】
熊本地八代支決昭和37.11.27労民集13巻6号1126頁
約8割を受注している関連企業の争議によって業務が減少し、休業した場合、使用者は不可抗力を主張することができず、他企業に対する受注の方途を講ずる等、客観的に見て通常なすべきあらゆる手段を尽くしたと認められる場合でない限り、休業手当の支払いを免れない
Q イベント開催事業者が、イベント開催の自粛要請を拒否し、イベントを強行する場合もあると考えられます。その結果、当該イベントの参加者が新型コロナに罹患した場合、イベント事業者としては、新型コロナに罹患した参加者に対して責任を負うのでしょうか。
A 責任を負う場合もあります。
イベントの開催事業者としては、単に求めれたイベントを開催すればよいわけではありません。イベント開催事業者は、条理上ないし社会通念上の義務として、当然に参加者の生命・身体等の安全を確保すべき注意義務を負っています。そのため、参加者の多くが当該イベント後に新型コロナに罹患したとなれば、当該イベント開催事業者は上記注意義務に違反した可能性があり、参加者から責任を追及されることになります。
【参考裁判例】
神戸地判平成17.6.28判タ1206号97頁(明石歩道橋事故事件)