労働判例コラム⑪(ジャパンビジネスラボ事件、学校法人Y大学事件、新栄不動産ビジネス事件)

労働経済判例速報2020.2.10

【育児休業取得後になされた有期労働契約への変更、雇止めが有効と判断された例】⇒東京高裁令和元年11月28日判決〈ジャパンビジネスラボ事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 一審原告(以下「X」という)は、一審被告(以下「Y」という)と正社員契約を締結していたが、Xが育児休業休暇を取得後、育児休業休暇終了日にYと週3日勤務、契約期間1年の契約社員契約を締結した。その後、Yは上記有期労働契約を更新しない旨をXに通知した。

 これを受けて、Xは、Yに対して、本件正社員契約は解約されておらず、仮に解約されているとしても契約社員としての雇用契約上の地位の確認及び賃金等請求及びYの不法行為を理由とする損害賠償を求める訴えを提起した。これに対して、Yは、Xの上記雇用契約上の地位の不存在確認の訴えを提起するとともに、Xの訴えに対してXの不法行為を理由とする損害賠償を求める反訴を提起した。

 一審は、Xの契約社員としての地位の確認、XのYに不法行為に基づく損害賠償請求を110万円の限度で認容しその余のお互いの請求を棄却ないし却下した。これに対し、双方が控訴した。

 

主な争点は、①契約社員契約の際の合意(以下「本件合意」という)の解釈及び有効性、②本件契約社員契約の更新の有無、③X及びYにそれぞれ不法行為が成立するかである。

第2 裁判所の判断

1 争点①について、まず、正社員と契約社員とではその担う業務も相当の違いがあるから、本件契約社員契約は、単に一時的に労働条件の一部を変更するものとは言えないため、本件契約社員契約を締結したことでXの選択により従前の正社員契約は解約したものといえる。また、Yによる雇用形態の説明及び本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びにその状況、Xが育児休業終了時に置かれていた状況、Xが復職を求めた経緯等によれば、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえるため、本件合意は、均等法9条3項や育会法10条の「不利益な取扱い」には当たらないというべきである。

 なお、本件合意は、将来正社員として稼働する環境が整い、本人が希望した場合において本人とYとの合意によって正社員契約を締結するという内容のものであり、Xが希望するという一方的な意思表示のみにより正社員に復帰するという内容を含むものではない。

 したがって、本件合意は上記の解釈の限度で有効である。

2 争点②について、Yにおける契約社員制度が育児休業明けの社員のみを対象とし、正社員として稼働する環境が整い本人が希望する場合に正社員として再契約するという運用になっていたことからすると、本件契約社員契約は、労働者において契約期間の満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと認められる有期労働契約(労働契約法19条2号)にあたる。

 本件でXは、Y代表者の命令に反し、自己がした誓約にも反して、執務室における録音を繰り返した上、職務専念義務に反し終業時間中に多数回にわたり業務用のメールアドレスを使用して私的なメールのやり取りをし、Yに関して事実と異なる情報を外部に提供するなど、Yとの信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念もないことからすると、本件雇止めは客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるというべきである。

3 争点③について、まずXが自宅待機処分を受けたことについて社外の者に伝えることは、Xのプライバシーを侵害する行為であるため、不法行為が成立するが、その他にYのXに対する不法行為は認められない。次に、XがXの代理人弁護士らと行った記者会見における、XのYについて真実と異なる発言には、Yの社会的評価を低下させるものがあり、それを真実と信じるにつき相当の理由もないことから、Xの上記発言はYの名誉を棄損するものとして不法行為を構成する。

第3 結語

 以上より、Xの本件請求については、上記Yのプライバシー侵害による不法行為に基づく損害賠償としての5万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がない。また、Yの請求については、Xの不法行為に基づく損害賠償としての55万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由がありその余は理由がない。

〈参考判例〉

・最高裁平成26年10月23日判決(民集68巻8号1270頁『広島中央保険生協事件』)

・最高裁平成28年2月19日判決(民集70巻2号123頁『山梨県民信用組合事件』)

〈参考法令〉

・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第9条3項

 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)65条1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第10条

 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

・労働契約法19条2号

 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働経済判例速報2020.2.20

【特任教員の雇止めについて更新期待の合理的理由が否定された例】⇒(1審)札幌地裁平成31年2月13日判決、(2審) 札幌高裁令和元年9月24日判決 〈学校法人Y大学事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 原告(以下「X」という)は、被告(以下「Y」という)との間で、平成22年4月1日、Yが設置するA大学においてロシア語学科の特任教員かつ准教授として労働契約を締結した。その後、本件労働契約は1年ごとに更新されていた。Xは、平成27年3月31日、雇用期間を平成27年度の1年間とすること、Xからの解約の意思表示がなければ雇用期間をその後1年間更新し、その後の雇用を保証するものではないことが記載された契約書に押印して、Yとの本件労働契約を更新した。本件労働契約は、平成28年度まで更新された後、Yの更新拒絶により終了した。そこでXは、本件更新拒絶が労働契約法19条2号に違反すると主張して労働契約上の地位の確認等を求めて訴えを提起した。

 

主な争点は、本件労働契約の雇用期間満了時において、本件労働契約の更新を期待することについて合理的な理由があるか否かである。

第2 1審裁判所の判断(雇止め有効)

1 上記争点の判断要素としてXは、規定の改正により特任教員の雇用期間が最大9年に延長されたこと、Yが教職課程の認定申請にあたりXを専任教員として記載したこと、他の特任教員につき雇用期間満了後も雇用形態を変えて労働契約が継続されていたこと、Xが特任教員としての業務を超えた内容の業務を担当していたこと、Y側がXに対し雇用継続を期待させる言動をしたこと、を挙げている。

 しかしながら、上記規定の改正は、特任教員の雇用期間を無条件に9年間とするものではなく、特別な必要がある場合で、かつ理事会の議決がある場合に9年まで更新可能とされているに過ぎない。また、本件更新拒絶は、Xが専任教員として記載された教職課程の完成年度後の期間に関するものであるし、他の特任教員の雇用継続は、当該教員の個別事情を踏まえた判断に基づくものであり、Xにもそのまま妥当するような事情ではない。さらには、Xが特任教員としての業務を超えた内容の業務を行っていたという事情も認められないうえ、Y側の言動としても、Xの平成29年度以降の雇用を確約するようなものはない。そのため、Xの主張する上記事情を考慮しても、Xが平成29年度以降において本件労働契約の更新を期待することの合理的な理由は認められない。

2 また、Xは、YがXとの本件労働契約を更新せず、非常勤講師としても採用しなかったのは、XY間の労働契約が期間の定めのないものに転換することを阻止するためであるとして、労働契約法18条1項に反する旨も主張する。

 しかし、だれを非常勤講師として採用するかはYの判断にゆだねられる事項であり、雇用の固定化防止、教育研究の活性化等のために教員の流動性を高めることが要請されている現状にも鑑みれば、期間の定めのない教員として雇用義務がYに生じる前の段階で、当該教員の雇用継続を打ち切ることも、Yの採用の自由の範囲内に属する判断といえる。

第3 2審裁判所の判断(雇止め有効)

 まず、Y大学に卒業生の中から優秀な人材を採用し学生のために末永く働いてもらうというという採用方針があったと認めるに足りる客観的証拠はなく、仮にそのような採用方針があったとしても、具体性を欠き本件労働契約の雇用期間満了時における更新の期待についての合理的理由とはならないため、この点についてのXの主張は採用できない。

 また、過去の事例とXの有期労働契約の更新の問題とは客観的に見て関連性を欠くことなどから、Xが有期労働契約の教員として専任教員として教職課程の担当となったことが史上初であることは有期労働契約の更新を期待することの合理的理由にはならない。

 さらに、Xは、説明会で理事から雇用継続への期待を抱かせる説明があったとするが、当該理事は、数年後の雇用の継続を約束することはできない旨発言しており、その場で契約の打ち切りを断言しなかったからといって本件労働契約の更新を期待させる合理的な理由とはならない。

 加えて、本件労働契約の契約書には、「雇用期間をその後1年間更新するものとし、その後の雇用契約を保証するものではない。」との記載があり、「その後1年間」とは、平成28年度の1年間を意味すると考えられるから、平成29年度以降の本件労働契約の更新が約束されていないことが明示されている。その他本件契約書への押印までの過程で、Xが平成29年度以降の本件労働契約の更新を期待することの合理的な理由となるような事情は認められない。

 続いて、Xは副学長の行為を苦情相談員に持ち込んだことがXの労働契約の継続を不利にした旨主張するが、この問題は、Xが本件労働契約が更新されるとの期待を抱いたかどうかとは無関係である。

 したがって、Xにおいて本件労働契約が更新されるとの期待を抱く合理的な理由はない。

第3 結語 

 以上からすると、Yが平成29年度以降において本件労働契約を更新しなかったことは、労働契約法19条2号に違反するものではなく、Xの請求はいずれも理由がない。

〈参考法令〉

・労働契約法19条

 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

・労働契約法18条1項

 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

【ホテルの設備管理等に従事する者の仮眠時間が労働時間に該当するとされた例】⇒東京地裁令和元年7月24日判決〈新栄不動産ビジネス事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 建物の総合管理業務等を業とする被告(以下「Y」という)の正社員として、ホテルの設備管理業務等に従事していた原告ら(以下「X」という)が、Yに対し、平成26年7月1日から平成28年7月31日までの間(以下「本件請求期間」という)における時間外労働時間に係る賃金の支払い等を求めた事案。主な争点は、①休憩時間及び仮眠時間が労働時間にあたるか、②変形労働時間制の有効性、③固定残業代制の有効性である。

第2 裁判所の判断

1 まず、①のうち、本件請求期間の休憩時間については、労務を提供したことの立証が尽くされているということはできないため、労働時間には当たらない。次に、仮眠時間について、参考判例①及び②の判断枠組みによると、本件では仮眠時間が規定されてはいたものの、仮眠時間中もXは、Yと本件ホテルとの業務委託契約に基づき、Y従業員として、本件ホテルに対し、労働契約上、役務を提供することが義務付けられており、使用者であるYの指揮命令下に置かれていたものと評価するのが相当である。なお、正確な作業時間を特定するのは困難ではあるが、外部業者による作業の内容等を考慮すると、外部業者への対応に相応の時間を要し、仮眠時間中にもそのような事態が生じたであろうことは合理的に推認でき、この推認を覆すような事情は存在しない。そのため、本件における仮眠時間は、労働時間に該当する。

2 次に、②のうち、まず1か月単位の変形労働時間制の有効性について、就業規則の規定からすると、単位期間における各日、各週の労働時間が就業規則において特定されていたと評価することはできないため、労基法32条の2の要件を充足しない(参考判例②参照)。次に、1年単位の変形労働時間制の有効性については労基法32条の4に規定があるが、本件では、就業規則届をみても対象労働者の範囲等は不明確であり、そもそも有効な労使協定が存在したことをうかがわせる記載もない。そのうえ、本件が同条2項及び同法施行規則12条の4第2項の手続きを経ていないことにはXY間で争いがない。したがって、本件では、労基法32条の4の要件も充足しない。

 よって、本件請求期間においてYが主張する変形労働時間制は、要件を充足せず無効である。

3 割増賃金の算定に関しては、労基法37条等に規定があり、その判断方法については最高裁判例も存在する(参考判例③④)。本件では、Yの給与規定には、時間外労働等に関する対価の支払いのため、固定残業代制を位置づけていたことがうかがわれる。しかし、文言上基本給部分にも時間外割増賃金が含まれるのかは明らかではなく、また、時間数の明示はあるものの、割増賃金の種類が示されておらず、通常の労働時間に対する賃金部分と割増賃金部分との比較対象が困難となっていることから、明確区分性の要件を充足しない。よって、Yにおける固定残業代制は労基法37条の割増賃金の支払いとして認めることができない。

第3 結語

 以上より、Xの本件請求は理由があり、YがXに対して多額の割増賃金を支払っていなかったことからすると法違反は悪質であり、付加金の支払いに関するXの請求も訴え提起時に除斥期間が経過していない部分については理由がある。

〈参考判例〉

①最高裁平成12年3月9日判決(民集54巻3号801頁『三菱重工長崎造船所事件』)

⇒労働基準法32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間という」)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という)が労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定めるものというべきである。

②最高裁平成14年2月28日判決(民集56巻2号361頁『大星ビル管理事件』)

⇒不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たり、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

⇒労働基準法32条の2第1項の規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される。

③最高裁平成29年7月7日判決(集民256号31頁『医療法人社団康心会事件』)

⇒労働基準法37条は、政令及び厚生労働省令の関係規定に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるというべきであるから、使用者は労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働党に対する対価として定額の手当てを支払方法や基本給及び諸手当等にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払う方法により同条の割増賃金の全部または一部を支払うことができるものと解される。

④最高裁平成24年3月8日判決(集民240号121頁『テックジャパン事件』)

⇒使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条所定の割増賃金を支払ったといえるためには、当該手当てが割増賃金の支払いの趣旨であるとの合意があることまたは基本給及び諸手当の中に割増賃金の支払いを含むとの合意があること(以下「対価性」という)を前提として、雇用契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別できること(以下「明確区分性」という)が必要である。