労働判例コラム⑩(アルパイン事件、公立大学法人A大学事件、学校法人Z大学事件)

労働判例コラム⑩(アルパイン事件、公立大学法人A大学事件、学校法人Z大学事件)

2020/05/29 労働判例

労働経済判例速報2020.1.20

【定年後の再雇用に関する雇用契約関係の存在が否定された例】⇒東京地裁令和元年5月21日判決〈アルパイン事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 音響機械器具の製造販売等を目的とする株式会社である被告(以下「Y」という)の従業員として稼働していた原告(以下「X」という)が、Yに対して定年による雇用契約の終了日(平成29年9月15日)以後も従前と同様の労働条件による雇用契約上の地位にあることの確認及び、定年後再雇用の条件として従前とは異なる業務内容を提示した行為が高年齢者雇用安定法(以下「高年法」という)の趣旨に反し違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求等をしたという事案。

 主な争点は、①上記契約終了日以後もXとYの間に雇用契約関係が存在するか及び②YがXの希望通り労働条件で再雇用しなかったことがXに対する不法行為にあたるかである。

第2 裁判所の判断

1 Yは、定年後の希望者を引き続き雇用する定年再雇用制度を導入し、本人の意向を踏まえつつ、再雇用希望者の知識、技能、ノウハウ又は組織のニーズに応じて職務及び労働条件を提示し、これに対して了承した者を定年後再雇用するという高年法9条1項2号所定の継続雇用制度を設けていた。

 本件において、YはXに対して、事前にXの希望する部署での再雇用はできない旨を説明し、実際に異なる部署での定年後雇用を提示して再雇用の申込みをしたが、Xはこれを拒否している。したがって、XはYからの申込みを拒否しており、Xは定年を迎えて退職したのだから、XとYとの間に平成29年9月16日以降にも雇用契約が継続していたことを認める余地はない。

2 高年法には、労働者が希望する労働条件での継続雇用を義務付ける定めはないうえ、Yによる労働条件等の提示にも客観的にみて不合理な点はないこと、本件でXの定年後にXY間の雇用契約が成立しなかったのは、YがXを雇用することを拒んだからではなく、XがYからの申込みを拒否したからであることからすると、XY間の定年再雇用契約が成立しなかったことにつき、Yに違法な行為があったと認める余地はない。

第3 結語

 以上より、XがYを定年退職した平成29年9月15日の翌日以降についは、XY間に雇用契約は存在せず、XY間の雇用契約が継続しなかったことについてYに不法行為も成立しないので、Xの請求は理由がない。なお、Xは、平成29年9月16日から平成30年9月15日までの雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めているが、これは過去の法律関係の確認にほかならずその必要性を基礎づける事情は見当たらないため、確認の利益を欠く。

〈参考法令〉

・高齢者雇用安定法9条1項

 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。

一 当該定年の引上げ

二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入

三 当該定年の定めの廃止

労働経済判例速報2020.1.30

【アカデミック・ハラスメント行為を認定し、減給処分が有効とされた例】⇒東京地裁平成31年4月24日判決〈公立大学法人A大学事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 A大学を設置する公立大学法人である被告(以下「Y」という)において、教授の地位にあった原告(以下「X」という)が、アカデミックハラスメントを理由として、Yから、A大学就業規則に基づき減給とする旨の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という)を受けたことについて、Yに対して、本件懲戒処分が無効であることの確認及び本件懲戒処分がなされたことにより精神的苦痛を負ったとして不法行為に基づく損害賠償請求をしたという事案。

 主な争点として、本件懲戒処分の有効性が問題となった。

第2 裁判所の判断

1 懲戒事由該当性

 まず、Yの防止委員会規定は、Yにおけるアカデミックハラスメントについて、教育研究上の地位又は権限を利用して、相手に対し、不適切で不当な言動を行うことをいうと定めている。

 本件懲戒処分の原因となっているのは、XがXのゼミに所属する学生に送信したメールである。その内容は、学生らの活動姿勢を苛烈に批判するものであり、侮辱的表現を殊更に用いていることから、総じて学生を侮辱しその人格や尊厳を傷つけるべき言動として、教育者としての配慮に著しく欠けるものと評価せざるを得ない。さらに、Xは、就職支援活動に携わっていたDの不適切なメールを制止せず、むしろ同調ないし助長していることからすると、この点についてもXの責任は大きい。

 以上のようなメールにより実際に不登校ないし退学に至った学生も存在することからすると、当該学生以外が被害を訴えていないからといって上記のようなメールを送信する等のXの行為がアカデミックハラスメントに該当しないことにはならない。

 よって、本件におけるXの行為はアカデミックハラスメントに該当するものであり、A大学就業規則28条の信用失墜行為の禁止の規定に違反し、同38条1項1号の懲戒事由に該当する。

2 懲戒処分の相当性(労働契約法15条)

 本件メールにおけるXの言動は、仮に指導の目的で行っていたとしても、その手法としてはなはだ不適切で不当なものであり、これを契機として学生が退学に至っていることからすると、生じた結果も重大である。また、XはA大学においてハラスメント防止委員会の相談員なども務めた経歴もあることからすると、上記のような行為は、Yのハラスメント防止に向けた取り組みに対する周囲の信頼を損なう行為というべきであって、その影響も大きい。さらに、Xは、今回の行為の問題性を真摯に受け止めておらず、反省の情に薄い。なお、Xはこの点について各種反論しているが、いずれも相当性を損なうに足りるものではない。

 以上からすると、本件懲戒処分が重すぎて相当性を欠くとは言えない。そのため、本件処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないということはできないから、本件懲戒処分は有効である。

第3 結語

 以上より、本件懲戒処分は有効であるため、これが無効であることを前提とした損害賠償請求も理由がない。

〈参考判例〉

・労働契約法15条

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

【准教授による学生へのハラスメント行為を理由とした減給処分が有効とされた例】⇒東京地裁令和元年5月29日判決〈学校法人Z大学事件〉

第1 事案の概要及び主な争点

 原告(男性。以下「X」という)は、被告(以下「Y」という)が設置するZ大学の准教授の地位にあったが、平成29年7月7日、同大学の女子学生2人(以下、「A」または「B」という)に対して、Z大学ハラスメント防止規定(以下「本件防止規定」という)及びZ大学教職員行動規範に反してセクハラ、パワハラ、アカハラを行ったとして減給の懲戒処分を受けた(以下「本件懲戒処分」という)。これに対して、Xは、本件懲戒処分の無効の確認を求めて本件訴訟を提起した。

第2 裁判所の判断

1 懲戒事由該当性

 Xは、女学生Cに対してAが性的な欲求処理をうまくできていないと示唆する内容のメールを送信しているが、このような行為は本件防止規定所定の性的言動にあたる。このような行為は、Aと同様の平均的な立場の女子学生であれば、その就学意欲を低下させる行為であると評価でき、Aもそのような行為がなされたことを知り、不快の念をもっている。したがって、Xの上記行為は、本件防止規定所定のセクハラに該当する。

 また、Xは、Aが拒絶した後もAの交友関係について過度の干渉を行っており、このような行為は学生の意向を無視した不適当な行為であるといわざるを得ず、Aの就学環境を悪化させたといえ、本件防止規定所定のパワハラに該当する。

 さらにXは、Bに対して大学のキャンパスから離れた場所で二人きりでの食事及び宿泊の可能性も示唆するような内容のメールを送信しているが、このような誘いをすること自体、相手を不快にさせる性的言動と評価するに足り、実際にBも困惑させられたものであるから、本件防止規定所定のセクハラに該当する。

 加えてXは、試験についてBを特別扱いする内容のメールも送っており、Bを困惑させ、一旦は単位など不要との思いを抱かせていることからすると、当該行為はBの就学意欲を低下させる言動として、本件防止規定所定のアカハラに該当する。

2 懲戒処分の相当性

 上記のようなXの行為は、A及びBに対し、性的な嫌悪感を抱かせる等するものであり、指導の目的という側面が皆無とまでは言えないものもあるが、総じて不見識であったり、手法としてはなはだ不適切な行為であったといわざるを得ない。そして、A及びBは、ハラスメント申立に至っていることからすると、その被害についても軽視することはできない。また、Xのこのような行為は、ハラスメント防止に取り組んできたYの努力を損ないか ねないものである一方で、Xは反省の情に薄い。

 以上からすると、本件について、戒告に次ぐ懲戒処分である減給程度の懲戒処分をもって臨んだからといって、これが重すぎで相当性を欠くということはできない。

第3 結語

 以上より、YのXに対する本件懲戒処分は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にあたるとはいえず、本件懲戒処分は有効であるため、Xの本件請求は理由がない。

ご意見・ご質問など、お問い合わせは、下記フォームからお願いいたします。