新型コロナウイルスに関する企業の法的対策のポイント(契約取引編)

新型コロナウイルスに関する企業の法的対策のポイント(契約取引編)

2020/03/05 新型コロナウイルス法的対策

【はじめに】

今後随時想定される問題をQ&Aでアップしていきますが、取り急ぎ参考となる省庁や弁護士会の情報を掲載します。なお、本整理は、経済産業省のホームページに掲載されている情報、東日本大震災等復興支援委員会によるQ&A、「中野明安弁護士がNBLに寄稿された「新型インフルエンザと法的リスクマネジメント-企業における対策のポイントと法律実務家の役割」(NBL No.899-10頁以下)、日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事業再生PT座長宮原一東弁護士作成の 「新型コロナウイルスによる売上減少、資金繰りに不安を感じている事業者様へ」 と題するご案内、三苫裕弁護士・黒田裕弁護士におる「新型コロナウイルス感染症への法務対応(1)「想定し得る諸問題の概観」(商事法務No.2224、24頁~)、に依拠する部分が大きい。

【経済産業省】

新型コロナウイルス感染症で 影響を受ける事業者の皆様へ(パンフレット)

新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へダウンロード

コロナ緊急対策関連情報 (下請取引)

中小企業庁は、各府省等、都道府県知事、人口10万人以上の市及び特別区の長に対して、官公需の発注に当たり、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている中小企業・小規模事業者に対して、柔軟な納期・工期の設定・変更・迅速な支払や適切な予定価格の見直し、官公需相談窓口における相談対応について要請しました。

※各府省等とは、各府省及び各府省の所管する独立行政法人・国立大学法人等を指します。https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200303009/20200303009.html

【金融庁】新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200210.html

金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書)について、今般の新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていますので、ご遠慮なく所管の財務(支)局にご相談ください。
(注)有価証券報告書及び
内部統制報告書の提出期限     : 事業年度経過後3ヶ月以内
四半期報告書の提出期限      : 四半期会計期間経過後45日以内
半期報告書の提出期限       : 中間会計期間経過後3ヶ月以内

【法務省】定時株主総会の開催について

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html

今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。

【弁護士会】

新型コロナウィルス生活トラブルQ&A

202003130700新型コロナQAダウンロード

【広島県】

【広島市】

【取引編Q&A】

〈新型コロナの感染拡大を原因として取引先に損害を生じさせた場合〉

Q 運送事業において、今後新型コロナの感染が拡大したことを原因として、配送が遅れてしまい取引先に損害を与えてしまった場合に、その賠償をする義務を負うのでしょうか。

A まず、契約上の債務を履行できないことにより取引相手が損害を被った場合に、その賠償義務を負うかについては、民法415条の問題になります。すなわち、当事者の責めに帰すべき事由(帰責事由)により、当該債務不履行が生じた場合には、当該帰責事由がある当事者が損害賠償義務等を負います。一方、帰責事由がない程度に対策を講じていたにも関わらず債務の履行ができなくなった場合、つまり債務不履行の原因が、不可抗力による場合には、損害賠償等の義務は負いません。

 荷物の延着により取引先に損害を与えてしまった場合も、その原因が不可抗力といえるか、すなわち当事者に過失がないかどうかが問題になります。この点について、裁判例(※1)は、不可抗力といえるか否かについて、その債務の履行ができなくなった直接の原因について予見可能性があったかどうかを問題とし、その予見可能性の程度としては、抽象的な危険についての予見可能性では足りず、具体的な予見可能性を要するとしています。

 もっとも、新型コロナが大流行することを具体的に予見することは困難ですが、過去に新型インフルエンザが大流行した年もあることからすると、同様の感染症が大流行する場合を想定することは可能といえます。そうすると、労働者が大流行した感染症に罹患し、人員確保が困難になり配送稼働力が低下しうることは予見可能ですし、公共交通機関の間引き運転等により、自家用車で出勤するビジネスマンの増加することで道路の渋滞が生じることも予見可能といえる余地もあります。以上からすると、債務の不履行が不可抗力によるものであるとするためには、普段から、そういった感染症が大流行した場合を想定して対策(BCP)を講じておくことが重要といえます。

【参考裁判例】

東京地判平成11.6.22判タ1008号288頁
阪神淡路大震災の際に、倉庫内の化学薬品が荷崩れにより漏出し、ほかの貨物から流出した水分と化合して発火した火災により貨物が消失した事故について、倉庫会社に過失があったかが争われた裁判例で、阪神淡路大震災を震度7の未曽有の大地震であると認定し、このような規模の大地震が発生することを具体的に予見することは不可能であったと判断し、倉庫会社に過失は認められないと判断。

【参考法令】

民法415条(債務不履行による損害賠償)*改正前
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

Q 機械の部品のメーカーが新型コロナを原因として事業休止となり、サプライチェーンが深刻な打撃を受けています。メーカーが最終製品を完成させることができず、納品ができないという事態が考えられますが、この場合に生じた損害の責任はだれがどのように負うのでしょうか。

A この点についても、部品メーカー、医療器具メーカーに帰責事由があるかどうか(不可抗力免責を主張できるか)が問題となります。すなわち、過去に地震等の災害を原因として部品の供給停止という事態が発生していますので、このことを念頭に置き、サプライチェーンにおける具体的なリスクを認識・理解し、普段から他企業に対する受注の方途を講じるなど、ボトルネックの対策(BCP)を講じておくことが重要です。

 以上のような対策を講じていなかった場合、不可抗力による債務の不履行と認められない余地があるので、メーカーとしては最終製品の納入ができなかったことによる責任を負うことになりますし、部品メーカーもメーカーに対して一定の責任を負う可能性があります。

【参考裁判例】

熊本地八代支決昭和37.11.27労民集13巻6号1126頁
約8割を受注している関連企業の争議によって業務が減少し、休業した場合、使用者は不可抗力を主張することができず、他企業に対する受注の方途を講ずる等、客観的に見て通常なすべきあらゆる手段を尽くしたと認められる場合でない限り、休業手当の支払いを免れない

Q イベント開催事業者が、イベント開催の自粛要請を拒否し、イベントを強行する場合もあると考えられます。その結果、当該イベントの参加者が新型コロナに罹患した場合、イベント事業者としては、新型コロナに罹患した参加者に対して責任を負うのでしょうか。

A 責任を負う場合もあります。

 イベントの開催事業者としては、単に求めれたイベントを開催すればよいわけではありません。イベント開催事業者は、条理上ないし社会通念上の義務として、当然に参加者の生命・身体等の安全を確保すべき注意義務を負っています。そのため、参加者の多くが当該イベント後に新型コロナに罹患したとなれば、当該イベント開催事業者は上記注意義務に違反した可能性があり、参加者から責任を追及されることになります。

【参考裁判例】

 神戸地判平成17.6.28判タ1206号97頁(明石歩道橋事故事件)

〈労働者の人員確保〉

Q 新型コロナの爆発的大流行が生じた場合、法や契約条項はどこまで遵守しなければならないのでしょうか。たとえば、介護・警備など資格要件者を必ず置かなければならない職場で、新型コロナを原因として資格要件者の確保ができない場合は、事業を中断すべきなのでしょうか。

A この点については、臨時設置法等による立法的な解決によらざるを得ません。

 現行法で検討するならば、資格要件者が不足したとしても、要介護者等は存在するのであり、そのような要介護者の生命身体に生じる危難を避けるため事業を継続せざるを得ないような場合には、正当防衛や緊急避難など、刑法上の違法性阻却の条項を用いるしかないと考えられています。

〈企業による責任の差〉 

Q 社会機能維持にかかわる企業が事業を継続していたために従業員が新型コロナに罹患してしまった場合と、その他の競業があえて事業を継続していたために従業員が罹患してしまった場合とで、企業の責任に法的な差はあるのでしょうか。

A 法的責任の重さについて特段の差はありません。

 そもそも、社会機能維持にかかわる企業とその他の企業の明確に区別することは困難であるといえますし、企業が労働者に対して負う安全配慮義務についてはどの企業であれ同等に求められます。

<契約関係の解消について>

Q)新型コロナウイルスの発生が報告されたことを理由として、直前に締結した事業譲渡契約や株式譲渡契約について、事業環境が大幅に変わったために解消したいが、可能か。

A)締結さえた事業譲渡契約や株式譲渡契約に、重大な悪影響が生じた場合に取引のクロージングを阻止し、または契約の解消を可能とする条項(いわゆるMAC【Meterial Adverse Change】条項)が規定されている場合は、当該条項の適用の可能性を検討する必要があります。

もし規定されていない場合は、事情変更の法理に基づく契約解除を主張する余地があるかを検討することとなります。

<資金繰り表の作成・リスケ交渉>

Q 資金繰り表の作成

1.まず約定の支払を続ける前提で資金繰り表を作成。資金繰り表は、「日本公認会計士協会近畿会」のwebサイトからダウンロードすることができます。 https://sakuradori-lo.com/knowledge/knowledge-136/

<目的>このまま約定どおりの支払いを続けたら、いつの時点で資金ショートするか(若しくは、手形不渡り事故となるか)を知るために策定します。[月次資金繰り表]だけでは期中の資金ショートが分からないので、[日繰り表]も策定しましょう。)。

<収入>収入は判明している限り、現実に入ってくる金額を書いて下さい。原則として、売掛金回収リストなどを活用して、現実に入金される見込みの金額を入れるようにしてください。将来分で売掛金が確定していないものや現金主義の会社の場合には、昨年の同時期を基準に今期の売上予測(新型コロナウイルスによる影響等により、入金が下がるのであれば、下がる見通しの金額)に従って、記入してください。

<支出>支出については、既に請求書が届いているもの、取引先により支払日が決められているもの、電気・ガス・水道等の公共料金(家賃やリース料等の事務所経費)の自動引落、従業員の給料、銀行等の返済等支払日が決まっているものは、できる限り正確に記入して下さい。

2.改訂資金繰り表の作成

<目的>約定資金繰り表で近い将来(ex.3ヶ月後)資金ショート(ex.手形不渡り)する事が判明した場合、資金ショートを回避するあくまで一時的な応急措置を取るために作成するものです。現実に交渉、行動に移すわけではなく、これらの検討材料として作成することになります。

<収入>約定資金繰り表と同じです(新たな資金調達ができる場合は、その分を考慮します。)

<支出>できる限り、信用不安を惹起させない支払先から順次弁済を停止・返済猶予の検討をしてみましょう。停止しても事業価値が低下しないところから停止をお願いすることになります。

Q リスケ交渉・新規融資、保証

関係省庁から要請が出ておりますので、金融機関は、元本の返済猶予については、柔軟対応してもらえる可能性があります。https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200207.html

金融機関の利息支払停止をしないと資金繰りが回らないというのは、異常事態です。金利すら支払えない事態になってしまいますと、金融機関の預金口座が利用できなくなる恐れもありますので、そこまで厳しい事業者の場合には、早期に弁護士に相談に行くことをお勧めします。

それでもまだ収支がマイナスの場合はやむを得ず、取引先のうちの大口分の順で支払繰延の検討をしたり、公租公課の支払の一部を止めることを検討します。もっとも、安易に相談に行くと、信用不安が生じることや滞納処分を受けることも考えられますので、丁寧な交渉が求められます。できれば弁護士の同席が望ましいと思料します。

信用保証協会は、セーフティネット保証4号・5号を拡充。日本政策金融公庫は、セーフティネット貸付の要件緩和をし、衛生環境激変対策特別貸付という貸付制度を用意しています。詳細は経済産業省のパンフレットをご参照ください。

経産省パンフレットダウンロード

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