フリーランス等及び労働分野における独占禁止法の適用について

平成30年2月15日、公正取引委員会の競争政策研究センターが「人材と競争政策に関する検討会報告書」をまとめました。報告書は、企業のフリーランスへの発注取引において報酬支払いの遅れや減額などの行為のほか,フリーランスを過剰に囲い込み、他企業との契約を制限する行為が優越的地位の濫用として独禁法上問題となる場合の考え方などを整理しています。

公正取引委員会は、上記報告書について、全国で説明会を開催しており、広島では平成30年5月22日に開催されました。下西祥平弁護士が出席した「人材と競争分野に関する検討会」報告書に関する説明会を踏まえて、報告書のポイントを下記に簡潔にまとめましたので、ご参照ください。

本報告書の内容を踏まえて直ちに摘発ということは想定していないようですが、将来を見据えて、一度自社の取り扱いを点検されることをお勧めします(特に管理部門に情報が伝達されていないが、現場では状態化している等の無いように、下記を参考にチェックリスト等を作成して、内部監査等において点検することも一案です)。


(検討の背景)

  • 個人の働き方の多様化に伴う「個人として働く者」の増加、今後さらなる働き方の多様化

  • シェアリングエコノミーに関する市場が拡大するとの予想

  • 労働人口減少等により深刻な人材不足問題が起こると、人材の獲得を巡る競争を制限する行為の可能性

(雇用分野における独占禁止法適用の意義)

●独占禁止法を人材の獲得に当てはめると、「公正かつ自由な競争」による市場メカニズムが十分発揮されることにより、

1.役務の価値を適切に踏まえた「正当な報酬」が実現

2.労働力の需給マッチングを高め、社会全体における人材の適材適所の配置

3.人材を利用して提供される商品・サービスの水準の向上を通じた消費者利益の確保

さらには、経済的格差の是正も期待される。

●個人として働くものを取り巻く状況を踏まえれば、人材の獲得を巡る競争に対する独占禁止法適用の意義は大きい

●独占禁止法は2017年をもって施行70年を迎えた

現状、人材獲得競争に関する独占禁止法上の考え方が整理されていない。その考え方を検討・整理することは、喫緊の課題。


(独占禁止法に違反したらどうなるのか)

●公正取引委員会による行政処分

➢排除措置命令

➢課徴金納付命令

●刑事罰

➢公正取引委員会から検事総長に対して刑事告発

➢実行行為者は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、法人は5億円以下の罰金

●民事訴訟(私人による民事的救済)

➢差止請求訴訟(不公正な取引方法)

➢損害賠償請求訴訟


(独占禁止法の適用が検討される対象)

●発注者同士の「共同行為」

●発注者から「個人で働く者」(*)への「単独行為」

「競争政策上望ましくない行為」

 

①「共同行為」…複数の発注者(使用者)が共同して行う制限行為

②「単独行為」…個々の発注者(使用者)が単独で行う制限行為

③「競争政策上望ましくない行為」…独占禁止法上問題となる行為を誘発する行為(≠問題行為)や、公正かつ自由な競争を損なう行為

【ポイント】

  Q)「個人で働く者」(役務提供者・例:フリーランス、スポーツ選手、芸能人)以外の、伝統的な労働基準法上の労働者や労働組合法上の労働者は、独占禁止法により保護されないのか。

  A)×(そうではない)。既存の労働法制で保護される労働者に対しても、公正かつ自由な競争を損なう行為(使用者間の共同による人材獲得競争の制限や、単独行為としての他の使用者との不当な取引制限等)については、独占禁止法上問題となることがある。

(独占禁止法上問題となる行為の類型)

【共同行為】

1.発注者が共同して人材獲得競争を制限する行為

● 人材獲得市場において決定されるべき取引条件を共同して人為的に決定することは、独占禁止法上、原則として問題となる。(フリーランスにとっては取引先が固定されてしまい、選択できなくなってしまう)

● IT会社によるIT人材の引き抜き防止協定が米国で問題となったように、使用者の同様の行為についても、独占禁止法上、原則として問題となる。(フリーランスだけでなく、労働者の選択の機会を奪い行為は問題となる)

● スポーツチームの移籍制限については、興行としてのスポーツの特殊性ゆえに戦力均衡のために一定の歯止めが求められたり、シーズン途中での選手の移籍を制限することは必ずしも不当ではない。

● 人材獲得市場において共同して取引条件を曖昧な形で提示することは、「競争政策上望ましくない行為」とされる。

【単独行為】★調査結果による限り、日本では単独行為において独占禁止法違反が疑われる。

2.取引の相手方の利益を不当に奪い競争を妨げる行為(優越的地位の濫用)

〇優越的地位にある発注者(一部行為は使用者)が課す制限・義務等が不当に不利益を与える場合は、独占禁止法上、問題となる場合がある。

〇不当に不利益を与えるか否かは、これら義務の内容や期間が目的に照らして過大であるか、役務提供者に与える不利益の程度、代償措置の水準、あらかじめ十分な協議が行われたか等を考慮の上で判断される。

〇フリーランス、スポーツ、芸能の各分野の様々な事情に基づき、個別判断

【優越的地位の考え方】

取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、発注者がフリーランスにとって著しく不利益な要請等を行っても、これを受け入れざるを得ないような場合(要するに、選択の余地がない場合

➡発注者がフリーランスに対して「優越的地位」にあるという。

①役務提供者の発注者に対する取引依存度、②発注者の市場における地位、③役務提供者にとっても取引先変更の可能性、④その他発注者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮して判断される(優越ガイドライン

*単に優越的地位にあるだけでなく、正常な商慣習に照らして不当に行われる行為が「優越的地位の濫用」として、独占禁止法上問題となる(例:代金の支払遅延、代金の減額、成果物の受領拒否、著しく低い対価での取引要請、成果物に係る権利の一方的取扱い、発注者との取引とは別の取引により役務提供者が得ている収益の譲渡の義務付け

(優越的地位の濫用場面の想定例①)*他の発注者との不当な取引制限

規約上、管轄団体に競技者登録している選手が当該管轄団体の公認のない試合に出場することは禁止されており、これに違反した場合は競技者登録が取り消される可能性がある。

●ある使用者・発注者が、取引先の役務提供者に自らの発注業務に専念させるため、当該役務提供者が他の使用者から業務を受注できないように、他の使用者・発注者に対し、当該役務提供者への発注を取りやめさせた

●ある会社は、従業員が競合他社に転職した場合、転職した時点で、就業規則上の秘密保持義務を根拠に訴訟を示唆する警告書を、当該従業員及び転職を仲介した人材紹介会社に送付し、円滑な転職活動を妨害している。

契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、芸能事務所のみの判断により、契約を一度更新できることが契約上規定されており、また、芸能事務所の判断で当該規定が実施されている場合がある。

★ 役務提供者にとって秘密保持義務・競業避止義務の対象範囲が不明確である場合や、対価等の取引条件について他の役務提供者への非開示を求めることは、「競争政策上望ましくない行為」とされている。

* どのような場合に義務違反となるのかが不明確であると、義務違反を理由とする訴訟リスクを回避するために、役務提供者が、他の発注者に役務を提供することや転職することなどを萎縮させることとなり、役務提供者の選択の自由を損なう

* 他の者の報酬を知らなければ報酬について交渉をすることができず、競争が生まれない。

* 対策として、関係分野ごとに、当該秘密保持義務・競業避止義務の範囲の明確化に資する一般的な考え方を取りまとめ周知する役務提供者が範囲を明確にすることが必要となったときにそのための手続を整備するなどの対応が考えられる。

(優越的地位の濫用場面の想定例②)*相手方にとって不当に不利な内容での取引【←日本において特に多いのはこの類型とされている】

●同一の業務のを、同時に複数の役務提供者に発注し、質の高い成果物を納品した役務提供者と取引し、もう一方の役務提供者が納品した成果物については受領を拒否した。

●あらかじめ契約金額を使用者・発注者と役務提供者との間で決めていたにもかかわらず、予想以上に必要経費がかかってしまった等の使用者・発注者の一方的な都合で、役務提供者の報酬等が減額された。

★役務提供者への発注を全て口頭で行うことは「競争政策上望ましくない行為」とされている。

*発注内容や取引条件等が明確でないまま役務提供者が業務を遂行することになり、代金の支払遅延、代金の減額、成果物の受領拒否、著しく低い対価での取引要請等の行為を誘発する原因になると考えられている。

労働基準法職業安定法では、労働条件等の明示規定が置かれ、賃金や従事すべき業務の内容といった一定の労働条件については、書面による明示義務がある。労働契約法では、労働契約の内容の理解の促進として、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとされている。

 

3.取引の相手方を欺き、自らと取引をさせることで競争を妨げる行為(競争手段の不公平さ)

〇発注者(使用者)が役務提供者に対して事実と異なる優れた取引条件を提示し、役務提供者を誤認させ又は欺き、自らと取引するようにすることで、他の発注者との取引を妨げることとなる場合に、独占禁止法上問題となる場合がある。

4.他の発注者が役務提供者を確保できなくさせる行為(自由競争減殺)

〇発注者(使用者)が役務提供者に合理的に必要な範囲で秘密保持義務、競業避止義務又は専属義務等を課すことは直ちに独占禁止法上問題とならない。

〇ただし、それによって他の発注者(使用者)が役務提供者を確保できなくなり、商品・サービスの供給が困難となる場合に、独占禁止法上問題となる場合がある。

以上